00 of MTTBura

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射抜かれる。
その目は深い黄金。

あいつは俺より、少しだけ早く産まれたようで。
でも過ごしてきた時間とは関係なく、あいつは大柄で、ちょっと態度も大きな猫で。

俺より少し高い背。
俺より少し長い脚。
俺より少し大きな手。

俺よりかなり、奔放な心。

包み込む。
その目は限りなく蒼。

あいつはオレより後に、この街に出て来た。
でも過ごしてきた時間とは関係なく、あいつはこの街の多くから受け入れられ、必要とされた。

オレよりずっと優しい声。
オレよりずっと素直な口。
オレよりずっと頼られる背中。

オレよりかなり、苦労性。


正反対の2匹。
それなのに周囲から、まるで一対のもののように思われる程、よく似た2匹。

「…濡れた身体で、しかも窓から入って来るな!」
そおっと忍び込んだのに、暗がりから声がした。
「…あん?」
声の主は分かっているので、そのまま身体を振って水滴を払おうとしたところ…
思ったより近くまで来ていた白い影が、ぐいと外へ押しやってくる。
「せめて外でやれ!」
窓枠についた泥の足跡を見下ろしてから、キっと睨みつける。
「わかったよ、そうするから押すな!」
ここは所詮2階だが、“飛び降りる”のと“落とされる”のは勝手が違うので慌てて抗議する。
「大声を出すな!」
次の指摘だ。
注意する彼の方は、確かにずいぶんな小声でもって、真夜中の来訪者を怒鳴りつけている。

「次々と注文の多いヤツだなぁ」
「お前もまあ飽きもせず…そんなに俺に叱られたいのか」

構われたがりも大変だな…と、らしくなく強い口調で言う。
こんな風にものを言えるのは、ある意味心を許しているから。
それと、こう言っても今日の彼はそうそう立ち去らないと分かっていたから。
何故そう思うかといえば…明確な理屈はない。

そしてやはり、悪びれるでもなく上がりこんでくる大きな猫。
溜息をつきながらも、薄汚れた布切れを差し出して足の裏を拭くように促す。
これは本来は階下の玄関に置かれているものだが、こうなると分かっていたので持って来たのだ。

「マジメ猫」

「つっぱり」

縞模様の猫は、益々汚れた布切れを受け取って、もう一度睨みつけた。
黒に柄の猫は、その視線を正面から受けながら…
目の前のぷくっと膨らんだ白い頬を、冷えた両手で押さえつける。

「…ひゃ…ッ」
咄嗟に首が竦んだ。
「くっくっく…『ひゃ』ってお前…」
縞模様は笑われたのが普通にイヤで、さっきより更にムッとした顔で後に退いた。
「…騒ぐなっ…とにかく降りるぞっ」
家主である人間に気付かれぬよう、二匹は猫である誇りにかけて
それはそれは静かに、華麗とも言える足取りで階段を駆け下りた。


「コラッ!」
当然のようにキッチンに寄り道しようとした背中を、かなり容赦なく押さえつける。
「…んだよっ!爪たてんなっ」
「大・声・出す・なっ」
「……。」
耳に向かって小声で怒鳴り、不満そうな顔に近付く。
「それと、あちこちウロつくな」
ここは俺の家の中なんだから勝手は許さない…と、より相手が納得する理由を選んで述べる。
実際は飼い主にいらぬ迷惑をかけたくないという、至極“猫らしくない”気遣いなのだが。


玄関先が、マンカストラップの寝床。
「何しに来たんだ?」
寄り道を阻止され、追いたてられるように連れて来られたそこで、
ラムタムタガーは鼻を鳴らして嗅ぎ回る。
「何って…うん?…おっ、これ貰うぞ」

言うが早いか、マンカストラップの寝床の毛布の中にあった細長いジャーキーに齧り付く。
普通に出しても素直に食べやしないだろうと、咄嗟に隠しておいたものだ。
隠すと言っても、寝床の毛布の下に押し込んだだけで…
タガーもそれが、急な来訪に気付いた彼がわざわざやったものだと分かっていた。
「ほら、オマエも食えよ」
3本あったうちの1つを食べ終える頃に残りのうちの1本を差し出す…
まるで自分のものかのようだが、これが彼のペースだ。

「いいのか?」
「ひとりで食っても味気ねえだろ」

ぽいと投げられた言葉に、胸がきゅうとなる。

お前が?
それとも…俺か?

手足を伸ばして横になり、2本目のジャーキーを咀嚼する彼に向かって。
「…寂しがり」
「へっ、どっちが」

ふふん、と笑う彼を横目に…マンカストラップも腹這いに転がるとジャーキーを齧った。

「ん、まあまあだったな」
名残惜しそうに、何度も口の周りを舐めながら言うタガーを、マンカストラップはじっと見つめた。
「…今日は、シラバブがいないんだ」
見りゃあわかる、とアクビをしたタガーに構わず話す。
「おばさんのとこに遊びに行って…昨日帰ってくるはずだったが、この天気だしな」

何だか退屈で、人間にもらったおやつも気が進まなくて皿の上の飾りになっていたのだ。
けれど家の敷地内に猫の気配を感じ、それが階段上の廊下の窓から入って来るので…
皿の上のおやつは、毛布の中に一時避難した。無事役目を果たして今は2匹の腹の中。

「……知ってて来たのか?」
そんな気がする。
こんなひどい雨の中、わざわざやって来たのが単なる気紛れとは思えない。
「…そんなんじゃねーよ」
濃い茶色の耳が、やや後ろ向きにぴくぴく動いている…多分、真相は言葉と逆なのだ。
「…確かに、ひとりで食べるよりおいしかったな」
ふふっと笑って、口周りをぺろりと舐めた。

「あのな別に、オマエに会いに来たとかじゃないぜ?」
分かった分かったと言って笑うマンカストラップを見て、小さく舌打ち。

笑いが納まってから…ふと思い出したように、マンカストラップはタガーの傍に身体を寄せた。
「……なんだよ」
「たくさん昼寝したから目が冴えてるんだ。毛繕いしてやる」
「はあ?」
真顔で言うと、タガーの背中を右腕で押さえて舐め出す。
「お前、毛玉吐くの苦手だったろう」
そのくせたてがみも尻尾の先も、毛が多くてよく抜けるので難儀している…が、それを知っている者は少ない。
最近は、機嫌のいい時にメス猫達が寄ってたかって行っているが、彼女達のは単純に興味と遊びだ。

「…う~…」
雨の中を歩き回って冷えたせいか、暖かい場所で身体を撫でられて…かなり気持ちがいい。
マンカストラップは、丁寧に大きな背中を舐めていく。
タガーは、コイツはこんなときですらマジメなのかと少々呆れたが、
せっかくなのでそのまま目を細めて静かにしていてやろうと思う。

最近では、シラバブも自分で毛繕いをするが…まだまだマンカストラップやジェニエニドッツに甘えている。
そのシラバブの毛繕いをしてやる時のようで、マンカストラップの心はむやみに和んだ。
黙々と、確実に仕事(?)をこなしていく。
しかししばらくして、ぱたんぱたんと揺れるタガーの尻尾が視界に入る…

初めは気にならなかったが、タガーの肩から背中…腰辺りの毛を撫でつけ始める頃には
時折思わせぶりに揺れる尻尾の、房になった先が…気にかかる、それは猫の衝動、野生、本能。
手元では作業しながらも、その動きに気持ちがいってしまう……捕まえたい。

・・・・・・。

次に尻尾が床から持ち上がった時、気配を消したまま手を伸ばした。
「…ッ」
タガーの目がぱちりと開く。
「…放せ」
「…つい」
すまなかった、と肩をすくめて尻尾を放す。
手からすべり下りていく毛先をぼんやり見送った。
「おい、マンク」
「ん?」
ちょいちょいと手招きされて、顔を近づける。
「今度はお前の番だな」
「え?」
マンカストラップの白い首に、タガーの逞しい腕が回された。
タガーは捕まえたマンカストラップの耳を、後ろから食む。
「…わ…ッ…!」
逃れようともがくと、噛まれたのは一瞬、タガーの腕の力もすぐに弱まったので
からかわれただけだと気付いて安堵する…が、首と腰を掴む腕は外されない。

「……タガー?」
「…寝る」

短く答えて、マンカストラップを抱えたままじっと動かなくなった。

溜息をひとつ。

「……勝手なやつ」
「まあね」
「子猫みたいだ」
「なんとでも」
「……」
「……」

目立ちたがりなくせにテレ屋で。
無茶するのに冷静で。
不真面目なくせに、優しくて。

「…なんなんだ、お前は…」

マンカストラップは尋ねるでもなくそう呟いて、もう一度小さな溜息を漏らした。
雨音だけが聞こえる。

今日が雨の日で良かったと、少しだけ思う。
晴れた穏やかな夜だったら、静けさが気持ちをかき回すだろう。

本当に、自分を抱えたまま眠っているらしいタガーの顔を見ようとするが…首を捻るだけではダメだった。
寝息が聞こえて、ワガママ猫の身体が呼吸で上下しているのを背中に感じる。
少し瞼が重くなってくるが…眠ってしまいたくなかった。

シラバブを抱いて寝ている時とは違うぬくもり。
妙な緊張感と、不思議な安心感。

「…起きてんのか?」

気を紛らわそうとして、唯一自由がきいた自分の尻尾を揺らして過ごしていると、突然背後から声が上がる。
振り返ると、タガーはマンカストラップをあっさり放し、仰向けにごろんと転がって手足を伸ばした。
その傍に座り直して顔を覗き込む。

「……寝たら、知らないうちに出て行くだろう」

「何だソレ」

タガーが眠い目を擦って見上げると、叱られた子猫のような顔のマンカストラップ。

「だっておまえ…お前なんかっ…勝手で、ワガママで、優しくて…」
泣き出しそうな目で、じっと見下ろす。
「居て欲しいと思ったって…っ…すぐいなくなって…気が向かなきゃ寄り付かないし…」
それは普段の彼と、あまりにもかけ離れた表情で…けれど、紛れも無く彼で。
「…でもいい…お前だってどうせすぐ寂しくなるんだから、そしたら…っ」

タガーはやれやれという顔で…マンカストラップの首に手をやって引き寄せる。
抱き寄せられたマンカストラップは戸惑ったが、しゃくりあげそうになるのを飲み込んで、言葉を繋ぐ。

「……寂しくなったら…来ればいい…っ…」

行き場のない猫じゃない…よくわかってる。
それでも。
彼が来て、とても嬉しかったように。
彼が望んで、ここに来てくれたら。

ひとりで過ごす雨の夜。

耐えられない寂しさじゃない。
けれど。
耐えずに過ごせる相手の存在に、気付いてしまったから。

マンカストラップが突然泣き出した事に少々面食らって…
しかしタガーは頭の中に、次の行動を何パターンか用意した。
肘をついて少しだけ身体を起こし、腕の中の縞模様を撫でてやる。

「…泣くなよ」
「泣いてないっ」
「…ああそーかい」
「…お前が泣かしてるんだろっ」
「やっぱ泣いてんじゃねーか」

恥ずかしい。
こんな風に泣くのも、頭を撫でられるのも。
自分がどうしたいか…どうしていいか分からない。
彼が気まぐれに帰ってしまうのが怖くて、動けない。
顔すら上げられない。

そうして出てくる涙のわけを、目の前の猫は知っているような気がして。
ただじっと、嗚咽を殺した。

きつく目を閉じていても涙は止まらなくて、少し前に乾いたばかりのたてがみを湿らせていた。

いつも周りに誰かがいて、裏のない笑顔。
“寂しさ”とは無縁な猫だと思っていたのは、出会ってしばらくの間だけ。
寂しさをどういう経緯かで知っていて、それを避けたいが故の笑顔なのだと気付く。
いつもたくさんの猫を気にかけて、毎日誰かに会いに行く。
誰よりも寂しがりな猫だと知っている者は、そういない。
しかし、それにしても…

「…自分でも気づいてなかったのかよ」

聞こえないように口の中でだけ呟いた。
縞模様の耳は力なく下を向いているので、そっと撫でてやる。

ああ、やっぱりそうか。
寂しくて。
寂しくて。
構われたくて。

彼のプライドの為に口には出さないでおくが
震える背中は…まるで初めて発情して戸惑うメス猫のようだ。

撫でられたくて。
舐められたくて。
触れられていたい。

何を求めているか、理解できる。
それを与える事も、できる。
しかし自分の欲しいものがそれなのだと、この頑固な猫は納得できるだろうか。
困ったヤツだと思いながらも、どうしてやろうかと考えるとワクワクする。

「マンカストラップ」

呼ばれて顔を上げると、タガーはニヤリと口の端を上げていた。
その笑みについて何かを思うより先に、腰を掴まれて引き倒された。
身体の位置を入れ替え、今度はタガーがマンカストラップを見下ろす。
驚いて、仰向けに転がされたままのマンカストラップの両脇に手を付いて身体を伸ばしてから…
ずいっと顔を近づけて言う。

「寂しがり」
「…な、誰がっ」
「オマエだ、マンク」

金色に射抜かれた。
暗闇でぎらりと光るその目の奥に、自分が知らない彼の姿を見る。

「抱かれたいなら、そう言えよ」

なんてこと言うんだ、お前は。

頭の中ではそう叫んだのに、口には出せなかった。
不覚にもこの猫をカッコイイと思ってしまったが故に
口から飛び出してきそうなほど高鳴る鼓動を隠すために唇ををぎゅっと噛んで。
目は丸く見開かれて。
圧し掛かってくるデカい猫を突き飛ばす事もできるはずなのに、身体に力が入らない。

また新しく溢れてきた水分で、視界が歪む。
どうなっちゃったんだろう。
俺は、どうしてしまったんだろう。
自分でも何が何だか分からないのに。

「……なんで、お前が知ってるんだ…ッ!」

涙のわけも、俺の気持ちも。

雨はまだ強く降っている。
その音と、自分の鼓動とがうるさく耳に届く。
しかし、それはマンカストラップの方だけ。
タガーの耳には、雨の音とマンカストラップの途切れがちな呼吸が静かに響く。

「…分かるんだよっ、オマエの考えてることくらい」

身体には指一本触れずに、ただ蒼い目の周りの雫を舐めてやる。
そうして元に戻ったマンカストラップの視界には…
柔らかな態度とは逆の、強い目をしたタガーがいた。

「…ま、口で言わなくてもお前の態度は、充分俺とやりたがってるけどな」

喉の奥で笑いながら、それでもまだ触れて来ない。
無理矢理にでも抱かれるならば、拒むことなどできないのに。
求められれば、応じるのに。

「…欲しがれよ」

オマエはいつもそうだな…と、耳に直接囁かれ、全身が震える。

「他人のことばっか考えてっから、自分の欲しいものも分かんなくなるんだ」
「……っ…」

何も言えずにいると、タガーが身体を起こして遠ざかった。
咄嗟に、それを追おうとしてしまう。
また、タガーが目を細めて口の端を上げて言う。

「ほら、欲しがってみせろよ」

何をしたかったのか。
涙のわけも、自分の気持ちも。
ようやく理解した。

一度、ぎゅうっと目を閉じる。
次にそれが開かれた時…鈍く光るその蒼に、惹かれたのはタガーの方だが…そんな素振りは当然見せずに。
ずっと見つめ続ける金色に戸惑い、一度逸らされた視線は、また戻って来る。
しかし口を開いてみるものの、言葉を発する事ができずにいた。

マンカストラップはもう一度、自分の心を確認する。
今、この時、欲しいもの。
拘束されてる訳じゃない、身体は動かせる。
相変わらず、鋭い視線に若干の威圧感を感じながらも…腕を伸ばす。
タガーは、マンカストラップの腕が首に回るところまで屈んで、声は出さずに笑った。


豪華な彼のたてがみを、自分の傍まで引き寄せて。
マンカストラップは、すぐにラムタムタガーの唇に自分のを重ねた。
それは、ずっと以前から決められた合図のように。

ようやく自分を捕まえたその腕に、大人しく納まって。
ラムタムタガーは、マンカストラップの舌を吸い上げ、自分の中に引き込む。

待ちくたびれたその合図に、応えるために。

耳や鼻先に甘く立てられる歯。
腹と腿の表面の毛だけをかき回すように引っ掻く爪。
長く、短く、ザラつく場所を加減して、全身を這う舌。

「……っぁ…ッ…」
めちゃくちゃにされてしまう。
「…ゃっ…ぅん…ッン」
それは恐怖か、歓喜なのか…もうよく分からない。
「…オマエここ、すげえ感じるのな」
左脚の付け根から脇腹を、毛の流れに逆らって撫で上げる。
「…ッ…ん…っや、ぁ…」
しっかり押さえていながらも強すぎない圧力でゆっくり動く大きな手を、反射的に捕まえる。
「…んだよ、やめちゃっていーの?」
すぐに跳ね除けられる弱々しい抵抗を受け入れて、手を止めた。

一息ついて、タガーを見上げてみる…余裕のある顔で、舌をべーと出して笑っていた。
「…ッ…なんか…」
なんだか、自分ばかりが蹂躙されていて…タガーは慣れた態度で。
「…なんていうか、お前…その………っいや、やっぱりいい…」
今まで見てきた彼ではない気がして、つい顔を確かめた。
けれど、何が違うでもなく…あえて言うなら、確かに“いい男”だなあと思う。
丁寧で細かな愛撫が、彼のイメージと大きく違っているのも…刺激的、か?

黙ってしまったマンカストラップの手を解き、今度は縞模様の尻尾を捕まえる。
「…んんっ…」
跳ね上がった尻尾を逃がすことなく、マンカストラップの顔を覗き込んだ。
「オマエ、もっと抵抗するかと思ったぜ」
顎から頬を舐め上げて、耳のふちを舌先でなぶる。
「…ン……俺も、だ…っ」
マンカストラップの返答にタガーは2秒間だけ驚いて、またすぐに口元を緩める。

そして、マンカストラップ自身はもっと驚いていた。
この状況を受け入れている事に。
むしろ、待ち望んでいたように思える事に。
「…ぁぁっ…ッ」
肩口を少しキツく噛まれて、仰け反った。
自分の身体なのに、思ってもみない部分に快感を見つけられる。
タガーは徐々に身体を移動させ、マンカストラップの下腹部に顔を埋めたのと、
尻尾の付け根の裏側に指を這わせたのはほぼ同時。
「…ぅあ…っ…!」
突然の強い刺激に、全身の毛が逆立つ。
それをなだめるように、タガーの舌はマンカストラップのソコをゆっくり撫でる。
歯を立てないように気遣いつつ、わざと唾液をこぼして舐めた。
「…ん…んっ…」
閉じようとするマンカストラップの脚を押さえつけ、
タガーは伝い落ちた唾液を舌で辿って更に奥を探る。
「…や、タガー…ッちょ、待っ…」
「待てねえよ」
くちゅ。
瞬間、マンカストラップの耳には外の雨音さえ入らない。
押し当てられた感触と相まって、その音が家中に響いたような気がして。
マンカストラップの身体が強張る。
それから、しつこいくらいにソコを舐られては身悶えた。
唾液を塗りこめるように何度も擦られ、その度に跳ね上がる身体は自分ではないような感覚。

「…なんで泣いてんだよっ」
泣かれるようなひどい事をした覚えが無い…と口元を拭うタガー。
「…ん…なんでも、ない…」
ぐったりとして首を振るマンカストラップ。
恥ずかしくて、緊張して、それでも襲ってくるのは…快感、なのだろうか。
タガーはマンカストラップの目元を舐めてやってから、
その縞模様の身体を転がしてうつ伏せにさせる。

「乾くの早えーからな、すぐヤルぜ」

タガーの言う意味が分かって、また新たな緊張がこみ上げてくる。
大きな手の促すままに、腰を上げて、脚を開く。
「言ってもムリだろうけど…あんまし力入れんな」
耳の後ろで今までにない甘い声で囁かれ、腰が抜けそうだと思った時には彼の熱が入り込んできた。
「…ふ、ぁ…ッ…!…ぁ…」
タガーを信用していたい気持ちと、身体の中を押し広げられる事の違和感とがぶつかる。
身体ごと前へと逃げそうになるが、逃れられるはずもなく…ふいに首を噛まれた。
反射的に身体の力が抜けるのと、少し強引に食い込んだタガーの歯に、感覚が集中する。
「…は、ぁ…っぁ…」
腰を抱えられ、浅い呼吸を繰り返す。
タガーはマンカストラップが落ち着いてきたので身体を起こし、気遣いながらも動きは止めない。
「…すっげえキツい」
けどちょっとイイかも…という呟きも含め、今のマンカストラップの耳に届くはずもなく。
「…ぁ、は…ッ…ぁぁっ…」
さすがにこの行為で達することはないものの、身体はおかしく昂る。
2人とも、お互いの熱にいいようのない高揚感を覚えていた。
「…ッ…ぅん、ン…ぁ、タガー…ッ」
苦痛を訴えるような声。
しかし、タガーはその中に含まれた歓喜も聞き取って。
ぺろりと口周りを舐めると、もう一度マンカストラップに覆い被さる。

「…っカワイイ声出してんじゃねえよ…イっちゃうぜ?」

縞模様な耳の後ろに唇を押し当てて囁き、また白い首筋に噛み付いて。
絶頂に向かうべく、激しく揺さぶった。
「……んっ…!」
「…ひ、ぁ…ッ」
タガーは自分のが済むと、すぐにマンカストラップの中から出る。
「おい、こっち向け」
再び仰向けにされたマンカストラップは、まだ身体が昂ぶったままだ。
「…ここまでしてやんの、今日だけだからな」
意味が分からないまま、タガーの顔を目で追って…自分の下腹へ向かったのを見て赤面する。

「…や、待て…っいい、そんな…ッぁ」
「うるせえ」

硬く立ち上がっているソレを口に含み、喉の奥からじんわりと締め付けた。
舌の奥はザラついていて刺激が強すぎるので、できるだけ当てないようにしながら。
「…ぁぁっ…ッァ…だめ、ダメだもう…っ」
普段は自分の寝床でしかない毛布を握り締めて。
声を抑えようと必死になりながら。
タガーに掴まれた腰は、がくがくと震えた。

「…っ…も、いく…ッ!」


体中が、ぼんやり痛い。
寝たら治るだろうか。

見慣れた玄関の天井…こんなに高かったか?
ゆっくり目を閉じる。
すぐ傍の気配が…肩を、腕を、顔を舐めた。
それがとても気持ちよかったので、尻尾をそちらに摺り寄せてみる。
するともう2回、頬をゆっくり舐めてくれた。
そのまま眠ってしまいそうになりながら、それでも意識を留めておく。
眠ってはいけないんじゃなかっただろうか。
それは、どうしてだったっけ?

ああ、雨はまだ降ってる…でも、もうすぐやみそうな気がする。
重たい瞼を時間をかけて持ち上げて、背中側にぴったりくっついて座っている気配を見上げた。

細く目を閉じて。
しっかり顔を上げて。
しなやかな前足をきちんと揃えて。
尻尾がゆらりと持ち上がる。

ラム・タム・タガー

呼ぼうとしたけれど、声にならなかった。
彼の名前。
他の誰にも似合わない、気高い彼の名前。

深い思いに沈む彼。
何を思っているか、ちゃんと知ってる。
この思いは、みんな同じ。

マンカストラップ

心の中で、そっと呟く。
俺の名前。
誰にも譲れない、俺の誇り。

深い思いに沈む時。
この思いは、みんな同じ。

「マンカストラップ」
穏やかな声に呼ばれて、ぼんやりした意識が取り払われる。
気付けば、深い金色の瞳はこちらを見ていて。
「…起きてんのか?」
「もう寝るよ」
きっと朝まで、彼はここにいる。
もし寝ている間にいなくなっても、またそのうちやって来る。

俺もお前も、寂しがりだから。

「ラム・タム・タガー」
「…うん?」
ちょっと呼んでみたかっただけ。
「おやすみ」
「…ん」

深い黄金。
限りない蒼。

背中合わせで、彼らは知らないけれど。
まるで一対のもののように、同時に閉じられた瞳。

彼らの意識が沈む頃。
夜明けまではまだ遠く。
けれど、雨はもう止んでいた。

END

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