07 of MTTBura

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街の約半分ほどを見回ってきた縞模様の猫の様子がおかしかったので。
劇の稽古の後に最年少の子猫と遊んでいたメス猫は、心配そうな顔をした。

すぐ側で昼寝をしていた、白黒ぶちの猫が立ち上がる。

『俺が行って来よう』

そう言って、見回り範囲の残り半分を手伝うことにしたのだ。
縞模様の猫は自分が行くと言ってきたが、ぶち猫が首を振る。

『元々俺がむやみに広げた行動範囲の名残だろう』

だから心配いらないと言ったら、縞模様も渋々折れた。

今でも我々20匹前後の仲間のナワバリになってる、人間の多い場所。
こんな街の端っこ、もう別の猫達にくれてやればいいと言ったが…
あいつは難しく笑っただけで、今でもきちんと線引きしている。
もうナワバリなどに固執しないつもりだが…
まるごと差し出した場所が守られてるのを目の当たりにして、やや感慨深くもあった。

「……こんなもんか」

人間の雑多な匂いの中からリーダーがつけた印を嗅ぎとって、すぐそばに新しく匂いをつけた。
そして、だいたい周囲を見終って、さあ帰ろうと思ったところで…面倒事に出くわしたのだ。

端的に言えば、ケンカ。
出くわした、というと他人事のようだが。
売られたのは他でもない…俺だ。

くすんだ茶色のサバトラと、俺の体の白黒コントラストを逆にしたような猫。
俺が壁にマーキングしたのを見ていたらしい2匹は、いっぺんに飛びかかってくる。
向かってきた2匹の方へ低く駆け出し、そいつらをくぐるようにすれ違った。
一瞬足を止めて、先に俺を振り返ろうとしてた奴の腰辺りを思い切り引っ掻く。
より鈍いもう1匹は、その後でやはり引っ掻いてそのまま張り倒した。

俺が実質的にここらのリーダーだった頃なら、こんな身の程知らずなんて、目くらい潰してやってるとこだが。
今それをやったら、あいつに非難されるのは火を見るより明らかだし、
何よりこいつらにそこまでする必要は感じない…そう思うと若気の至りってのは、恐ろしいものだ。

あーもしかして…いや、もしかしなくても。
ケンカと言うよりは、一方的に俺がこいつらをいじめてるように見えるんじゃないか?

人間もあまり通らない道で睨み合い、
それぞれに2撃ずつ入れたところでもう1匹現われて、2匹は背中を見せて物陰へ。
黒と茶のまだら、さっきの2匹よりは幾分引き締まった体、鋭い目…
こいつが見掛け倒しなら、2度とこっちへは来ないぞ俺は。

そう思いながら一歩踏み出すと、そいつも静かに前へ出た。

ああ、ダメだ。
よくないな、こういうのは。

口の端がニヤリと持ち上がってしまう。

この圧力。
この緊張感。

まだら模様が地面を蹴ったのに合わせて真横に跳ぶ。
つい今しがた俺がいたとこに飛び込んで来たそいつに、精一杯の力で爪を引っ掛けた。
そうして絡まるように3回転半、俺は低く唸ってやつの耳を齧る。
あいつが蹴り上げてきた腹が重たく感じられたが、半分はかわしたのでダメージはなかった。

もみ合う合間に奴の爪が脇に刺さるのも、
俺の爪が奴の鼻っ面に食い込むのも…どっちも言葉にならない高揚感。
久しぶりの争い事に、血が沸く。

白黒のぶち猫自身はどういう訳かこみ上げてくる可笑しさをこらえているが、
目も口元もこれ以上ないという程に美しく恐ろしい笑みを形作る。


ああ、ダメだ。
すごくいい気分になってしまう。
よくないな、こういうのは。

頭では、帰ってからリーダーに叱られるのを思い描くが…身体の引っ込みがつかない。
もっと、この興奮に身を置いていたい…しかし。
そんな思いを巡らせていると、奴は俺の目を見据えたまま後ろへ跳び退った。

教会を出るときに、生意気にも俺の心配なぞしたリーダーに
『お前の方こそ気をつけろ』と言ってから一言も発していない。
ただ相手を平伏させる事が思考の大半だったが、俺の口は勝手に言葉を発する。

「来いよ」

こんなに俺を煽っておいて、まさか終わりじゃないだろうな。
そんな思いから、つい口を開いてしまったんだ。

しかし、すぐに続けて別の思いも浮かぶ。
煽ってるのは今の俺だろう…と。
ほんとによくない、こういうのは。



「…奴が引き際を心得てて助かった」

帰り道で会ったカーバゲッティに、まだギラついた目で笑うランパスキャット。

「奴の脚でも折ろうもんなら、あいつがどんな顔するか…」
「分かってるなら、控えろよ…」

溜息混じりに笑い返して、相手を少し気の毒に思う。
脚は折らなかったけど、首は折れてた…なんてことになってやしないだろうか。
ランパスがまだ“喧嘩猫”と言われていた頃を知っている身としては、案じずにいられない。
決して大柄ではなく、むしろ細身の風貌は黙っていれば争い事を好むように見えないのだが、
実は見た目を裏切る強さを持っているから、たちが悪いというか…心強いというか。
まだ暴れた余韻が残っているらしい表情…よく見れば首元に僅かではあるが血が滲んでいる。

普段はバランスを取る程度に低く揺れてるだけの尻尾が、今日に限って歩く度に左右にしなっていた。
その落ち着きの無さは、どうにも物足りないのだと訴えている。
今でこそ見守る側になったものの、
まだまだ芯から穏やかになったのではないのだな…と、実感するに充分な様子だ。

「お帰りなさい、ランパス」

2匹が向かう教会への坂道を下って来たのはジェリーロラムと、
眠たそうに手を引かれているシラバブだった。
「やあジェリー、シラバブ」
返事をしたカーバゲッティにニコッと微笑んでから、黙って立っているランパスキャットに向き直る。

「ねえマンカストラップが……やだ、ケンカ?」

彼女は言いかけた言葉を切って、ランパスの首にある引っ掻き傷を覗き込む。
ジェリーロラムの言葉に反応して、シラバブも心配そうに顔を寄せた。

「俺の毛色だと目立つだけさ、大したことない」

ランパスキャットがいつも通りに薄く微笑むと、ジェリーロラムは小さく溜息をつく。
シラバブは『大丈夫だってさ』と頭を撫でてくれたカーバゲッティの手にじゃれ始める。

「で、何だって?」
「あ、あのね…今夜シラバブを預かることになったの」
「…あいつは?」
「あの後すぐに“今日は都合が悪いから”って…今は屋根裏よ」

ジェリーロラムは心配そうに、くすんだ教会の屋根を振り返った。
切れ長の目を細めたランパスが尻尾をくるりと振る。

「明日か、遅くても明後日には元通りだと思うが」
「マンカストラップもそんな風に言ってたけど、何か知ってるの?」
「まだ“予想”だけどな…まあ問題ないさ」

心配しなくていい、と年長者に言われたので少し安心したジェリーロラムとシラバブは家路を急ぐ。
暗くなってきているから…と、カーバゲッティはそれに同行した。

「さて…どうしてくれようか」
今日は忙しいな…とひとり呟き、教会への坂道を急ぐでもなく上り始めた。


古い教会の屋根裏部屋。
礼拝堂のある建物とは別棟で、ここはリーダーや天邪鬼な猫が時折昼寝に利用する。
決まりがある訳ではないが、若い猫達はあまり入ってこない。

そこに今日は夕方から部屋の隅でうずくまっている猫がいる。
ごろごろと転げて落ち着き無く、どこか不愉快そうだ。

「…おかえりランパス。すまなかったな、手伝わせてしまって」
「なあに、たまにはいいさ」

様子を伺おうと、気配を消して来たつもりだったが…
先に声をかけられたので、両手を挙げて“降参”してみせる。

「驚かしてやろうと思ったのに」
「そういうのは間に合ってる」
「…タガーと一緒にされるのは心外だ」

本当にイヤそうな顔をしたランパスキャットに向かって、マンカストラップは苦笑した。
「…そんなに殺気立ってたら、寝てても分かるさ」
仰向けに転がっていた体勢から、くるりと座り直す。

ランパスキャットがガラスの外れた窓枠を蹴って、床に音も無く着地したと同時に問う。

「黒と茶のまだらか?」
「ああ」

短く答えて尻尾をくるくると振ってみせるランパスキャットと、
溜息をつくマンカストラップは対照的だ。

「外でジェリーとバブに会ったぞ」

ほこりっぽい部屋をゆらりと歩き回って、座る場所を定めて腰を下ろす。
居心地悪そうに後ずさるマンカストラップをじっと見下ろして、言葉を続けた。

「どっかでメスにサカられたのか?」
「…そんな言い方するなよ」

ランパスキャットは声こそ出さないが、ニヤニヤと笑う。
「…で、丁重にお断りした訳だ」
相変わらず堅いな…と、今度こそがまんできずくっくっと声にして笑った。

あからさまに困った顔を、ぷいと背けるマンカストラップに素早く近付き、耳元に囁く。
「ジェリーはともかく…バブまで遠ざけなきゃらんほど、切羽詰まってんのか?」
マンカストラップは何も言えずにいることで、肯定するしかなかった。
「せっかく誘われたなら、抱いてやったらよかったのに」

まあ、個々の事情も相性もあるのだが…
それでもメスが欲して鳴けば、オスの身体は本能的に惹かれる。
メスに完全な主導権がある猫の繁殖において、誘いを断るオス猫など不自然なくらいだ。

「…そういう問題じゃないだろう」

マンカストラップは自分が変わっている部類な自覚があるが…どうにも割り切れない。
もちろん、選り好みするつもりなどないのだが…
それでも特別な感情の無い相手と関係を持つのは考えられなかった。

「お前らしい」

俺には真似できないな…と、肩をすくめるランパスキャット。
もう放っておいて欲しいのだがそうも言えず、溜息をつくマンカストラップ。

「ただ…どうにも間が悪かったな」

突然、近付いてきた声と雰囲気が変わったことに驚いて。
続けて、後頭部から耳の先までを舐められたことに全身の毛がざわついた。

「…ぇ、っわ、ランパス…ッ」

押さえつけてくるランパスキャットが、ひどく攻撃的な目をしていることに気付く。
じたばたともがいた際に、マンカストラップの爪がランパスキャットの口元を掠った。
その感触に、両者が感じたものは全く違っていたが…2匹同時に動きが止まる。

「…ランパス、」
「言わずにおくのもフェアじゃないな、俺は今ヤリたくてしょうがないんだ」

血こそ滲まなかったが細く腫れた口の横をペロリと舐めて、微笑んだ。
日が落ちて暗くなった部屋で、真っ白の毛がぼんやりと輪郭を浮かび上がらせる。

「久し振りに手足が震えるくらい興奮した」

どうしようもない衝動を。
ただ時間が過ぎるのを待ってやり過ごすのは、思いの他切ない。

「欲求不満なお前見てたら…また思い出した」


今の俺と、今のお前。

なんだか似てないか?


そう言って笑った顔は、まるで幼い猫のようだったので…マンカストラップは拍子抜けした。
固まってしまったマンカストラップの唇に、ランパスキャットは自分の唇を重ねる。
触れる瞬間、状況に気付いたマンカストラップは逃れようとしたが…失敗。

「…ン…ッ」

口の中をぐるりと舐められて、解放された。

「強姦するつもりもないからな、選択の余地は残そう」

ひとつは…今どうにも困っている仲間を助けるつもりで交尾の真似事。
もうひとつは…途方にくれる仲間を追い出して自分も一晩、悶々と転げる。

「どうする、リーダー」

押し倒された体勢のままで、年上のぶち猫の話を反芻する縞模様。
どうしていいか分からず、じっと見下ろしてくる細い目を見返して呟く。

「……意地が悪いな、ランパス」

掠れた声で名前を呼ばれて、口の端を持ち上げる。

「そうか?お前のこっちの面倒も見てやろうってのにそりゃないだろ」
「…な…っやめ…!」

腰の辺りのグレーの毛並みを指先でかき回されたので、身を捩るマンカストラップ。
より具体的な場所までやってきたランパスキャットの手を、やっとで払い除けた。

「ガマンするより、ずっと身体にいいぞ」
「…ッ…」

マンカストラップはランパスキャットの提案の内容はもちろん理解していたが
どうにも返事ができなかった…しかし、即座に断る事もできずにいた。
押し黙るマンカストラップに顔を近付けて、
ランパスキャットは尻尾をぱたんぱたんと床に打ち付ける。

「迷うってことは…断る気はないんだろ」

じゃあ…と、再びマンカストラップの唇を塞いだ。
舌を吸い上げられてびくりと反応するが、すぐにランパスキャットの肩を押し返す。

「…ッ…な、んでこうなるんだ…っ?」

分からない奴だな…と少々面倒に感じたランパスキャットだったが、諭すように言う。

「生理的に嫌じゃないなら、お前は俺とするしかないだろ」
「だからなんで…っ」
「俺がお前としたいからだよ」

腕にある乾きかけの傷口をぺろりと舐めながらも、視線はマンカストラップに向けられていて。
身を削って争うのと、気に入った猫を床に押し付けて舐め回すのは似てるんだ…と、うっとりする。

「お前の代わりに出かけた先で、中途半端なケンカしちまった」

だから、こうしてどうにも収まらない興奮の相手をお前がしてくれてもいいだろう?
ズルイとは思ったが…こういう言い方すれば、彼は断れないから。

渋い顔をしていて、それでもイヤだと言わない縞模様。

「ああじゃあ、これでどうだ?」
ランパスキャットはガリガリと後頭部を後ろ足で掻く。
「俺は猛烈にヤリたいんだ、このままじゃ眠れないからな…手伝ってくれないか」

子猫に言い聞かすようなゆっくりした口調で、とんでもない事を言う。

身体の状態と雰囲気と巧みな言葉…理由は色々と考えられるのだが。
とにかく、マンカストラップは、彼の言葉に頷いてしまった。

承諾が取れるや否や顔を近付け、咄嗟に身体の前に出てきたらしい縞模様の腕を掴んで床に押さえつけると
抗うように押し返されたが、それはほんの一瞬。

「…ッ…ん」

すぐに抵抗する意思を引っ込めたが、両腕を押さえつけられたまま。
殺気に似た気配をさせながら、丁寧に顔を舐めてくる…乱暴にされるよりも、ある意味恐ろしい。

「ランパス…ッ」
「何だ」

おもむろに首を噛んできたのが自分の知ってる彼とは思えなくて…確認するような気持ちで名前を呼んだ。
返ってきた声は間違いなく彼で、鋭さを増している視線も久しく見ていなかったものだが、やはり彼。

「…手、放してくれ…逃げやしないから」

マンカストラップの発言を受けて、しばらく何か考えてから両手を解放する。

ざわり。
白地に黒の斑がある背中は逆立つ。
一度は奪った自由を、乞われて相手に返すことにある種の征服感を感じたから。
たまらなくて、後ろ足の爪を床に立てて足踏みした。

そんなランパスキャットの様子に、マンカストラップは本能的な恐怖感を拭えない。
危害を加えられるとは微塵も思っていないが、どうにも気配が独特過ぎる。

「そんなに怯えるなよ、捕って食う訳じゃない」
威圧感はそのままだが、ふわりといつもの顔で笑われた。
「…分かってる」
少しだけ気持ちが落ち着いたマンカストラップは、彼に会って間もない頃を思い出した。

血のついた前足を舐めながら、傷だらけの猫が逃げる背中を恍惚と眺めていて。
それを目の当たりにした自分は、少し震えていたと思う。
“手段”の為なら“目的”を選ばない主義なんだ…そう言って彼は振り返った。
だから、自分にはみんなをまとめる役割は向いていない…と。

『お前ならできるだろ』

ああ。
あの時の彼の目も、今のような棘のある光を持っていた気がする。
その時の自分は、そんな事に気付きもしなかったけれど。

行動範囲やメス猫の取り合いなどではなく“争い事”そのものを欲している彼。
整った顔とほっそりした身体つきからは想像できない程の“攻撃する意思”が発せられている。

群れをなした犬の喧嘩を収束させた猫の話を噂のように耳にしたが、
もしそんな猫がいるとしたら…こんな感じなのではなかろうかと思った。

などと考えている間にも、ランパスキャットの舌が脇腹を撫でつけながら下りていく。
幾度も身体をビクつかせながらも、口元を押さえて声を殺す。
尻尾を捕まれ反射的にそちらに顔を向けると、彼は目を細めて笑っていた。
もしかして、ずっと顔を見られていたのだろうか。
今どんな顔をしていただろう…羞恥でいっぱいになり、目を逸らす。

「そんな顔するな」
「…そう、言われてもっ」
「気が進まないなら…俺が“抱かれて”もいいぞ」

正直なところ、とにかく欲求が満たせればプロセスには拘らないつもりだ。
ただ、どうにもマンカストラップが積極的に性欲を発散するようには思えなかっただけで。

「お前が良けりゃ、俺はどっちでも」

強がりでも、ハッタリでもなく、さらりと言ってのける。
しかし、その申し出はマンカストラップにとっては大きな意味はなかった。
ぶんぶんと首を振って、ランパスキャットの薄い肩を引き寄せる。

「………無理だ」
「ん?」
「その……ランパスを、俺が…っていうのは…」

真剣に訴えているのに申し訳ないが、あまりの彼の神妙さに何だか吹き出しそうになった。
しかし、それも申し訳ないのでじっと声を聞く。

「…だから、別に俺のことはいいから……お前がいいようにしてくれ」
そこまで言って、唇を噛んだマンカストラップを…思わず抱きしめる。
「分かった分かった」
何だか犯罪っぽいことをしている気になるのは何故だ、と苦笑い。

身を竦めたマンカストラップを抱え、喉を鳴らすように低く唸りながら身体を擦り付けた。

「…喋り過ぎたな」

グレーに黒が入った耳に噛り付きながら、ぽつりと呟く。
耳の短い毛が舌にあたる感触で、昼間のまだら模様の猫を思い出してしまった。
薄い肉を噛み締めたくなるのをぐっと堪えて、口を離す。
ぞくりと本能が疼いた。

「あんまり手荒になったら、ちゃんと嫌がれよ」

冗談めかして言い放つ、しかし目だけは笑っていない。
マンカストラップは何も言わず、返事の代わりに自分から口付けた。
それから、夢中で身体を擦り付ける。
お互いにひどく気持ちが昂ぶってて。

刺激を求める。
押さえ付ける。

妙に強く噛み付かれるのも、なんだかとても良くなってきて。
甘噛みの域を超えてしまうと、背中に爪が立てられて。

「…ぁあ…ッぅん…」

脚の付け根を這う手の動きに、一層仰け反って声を上げる。
最初こそ漏れる喘ぎを堪えようとしていたが、今はもうされるがままに鳴いていた。

「…ラン、パス…ッや、もぅ…」
縋り付くように見上げると、ランパスキャットの顔が視界から消えた。
下腹部で張り詰めていた熱を覆った、ぬるい快感。

「…ふ、ぁ…ッ」

無意識に閉じようとした脚は、より大きく開かされた。
充血したソレを、ランパスキャットの舌がじっとりと這う。
「…っん…ぁぁっ…」
根元か先端か分からないが、なんだかすごくイイところを舌が掠めたと思った瞬間、放り出される。

「…ハァ…ハ…ッ」

肩で息をしながら、カラカラになった喉を紛らわすために唾を飲む。
膝が胸につくほど身体を折り曲げられて、普段は晒さない場所が露になった。
自分の姿に羞恥を感じる間もなく、ランパスキャットがソコに口をつける。

「…ッ…ゃ…!」

唾液を塗り込むように舌を使われて、経験のない刺激に身を竦めた。
床に爪を立て、すすけた低い天井を見上げて、身体の疼きだけを意識するよう努める。

「…ぁ…っぅ、ん……」

マンカストラップは、声をあげる事で衝動に身を委ねようと思った。
ランパスキャットは、マンカストラップが喘ぐ度に理性が薄くなるのを感じた。

このまましばらく焦らすように責めていたらきっと、少しおかしいくらいに興奮できそうだ、と思う。
しかし万が一、足腰立たなくしてしまっては困る…とも思い当たって、顔を上げた。
何も言わずに、マンカストラップにうつ伏せになるよう促す。
目の前で力なく揺れた縞模様の尻尾に噛み付きたくなるのを堪えて、唾液に塗れたソコを指の腹で撫でた。

「…ンッ…」
「…先に済ますぞ、落ち着かないとお前を壊しそうだ」

一応声をかけるが、マンカストラップに聞こえていたかは分からない。
覆い被さるように圧し掛かり、グレーの首筋を噛む。
歯を押し返す柔らかい感触に、目眩がした。
自分はこんなにおかしかったのか…と、妙に冷静に興奮してから目的を思い出す。

昂ぶっている自身の雄を、少々強引にマンカストラップの中へ押し込んだ。

「……ッひ、ぁ…っ」

深く呼吸して根元まで収め、中を広げるようにゆっくりと動いてから頃合を見て身体を起こす。

「…ぁ、ぁ…っランパ、ス…ッ」
首が自由になって手足を動かせるようになったマンカストラップは、無意識に身体が前へと逃げてしまう。

「…あんまり俺を悦ばすなよ」
ランパスキャットはマンカストラップの腰を掴んで引き寄せ、強く突き上げた。

「…ッ…や、ぁ…ぁぁっ」
ほとんど意味を成さない程度でも、抵抗されるとむやみに興奮してしまう。
縞模様の広い背中を見下ろしながら口の端が上がるのを自覚して、自分に溜息をひとつ。
身体より、頭の中が快感を感じているように思えたが…考え事は後回しにしようと決める。

一定のリズムで出入りして、絶頂に昇った。

単純に快感だけを追って“出して”しまうとびっくりするほど落ち着いて…
呼吸を整えながら、マンカストラップを抱き締める。

「…悪いな、先にイった」

耳の後ろで囁くと、マンカストラップがびくりと首を竦めた。
それが単純に可愛らしく思えて、荒い呼吸で上下する肩に噛み付く。

これを“甘噛み”と言うなら…さっきまでの自分のは手加減こそしているが“攻撃”に近い。
若干の反省の意思が生まれるが、今はそれどころでは無かった。

「…ぅあっ…ゃ…っ」

噛んだり、舐めたり、前に手を伸ばしてマンカストラップのソレを撫で回したり…と、
ある程度余裕をもって行為を続けるうちに、引いた熱が戻ってくる。

「…は、ぁ…っランパ、ス…ッ……」

名前を呼ばれて、ざわりと背が逆立つ。
何かを訴えつつも消えてしまったマンカストラップの声…何を求めてきているかは、よく分かっている。
一旦、マンカストラップの中から出ると縞模様の背中を引っ繰り返した。

「…ぁ…ッ」

こちらを向かせたところでもう一度マンカストラップの内部を犯す。
両腕を床に縫い止めるように押さえつけ、視線を避けようとする彼を見下ろした。
ぶち猫本人は気付いていないが、やはり口元は笑っている。

「…ぁあっ…んぁ……ッ…ぁ」

ゆるく腰を前後させ、マンカストラップの口から漏れる喘ぎを堪能してから両腕を放す。
空いた利き手でマンカストラップの股間を握り、もう片方の手で脚を押し上げて広げさせ、
もうすぐにでも達してしまいそうなマンカストラップのを扱く。

「…は、あ…!…っぁ……ぅ、ぁ、ぁ…ッ」
「待たせたな」

つい楽しみすぎた…と言って目を細めるランパスキャット。
マンカストラップはかぶりを振って、ぎゅうと目を閉じた。
細い指に嬲られている自分の股間に手を伸ばしかけて…触れるのを躊躇う。
その様子が無性に可愛らしく思えたランパスキャットは、行き場のない手の代わりにソレをより強く握った。

一際大きく喘いで、縞模様のしなやかな下肢が引きつるように震える。

「ゃぁ…ッんあ、ぁ……ぁぁ…ッ!…」

マンカストラップは無意識に腰を揺すって既に苦痛に近くなっていた快楽を貪った。


「……ハァ…っ」

苦しげに呼吸するマンカストラップを、特に心配するでもないが一応様子を伺うランパスキャット。
グレーの毛並の目元が湿っているのを見つけて、手の甲でぐいぐいと拭ってやる。

「…ンッ…」
「泣くほど良かったか?」
「…っ…な、違…」
「冗談だ」
「……ちょっと、驚いただけで…ぅん、ゃ…っ」

問いに対して少し遅めに過剰反応したのを笑いながら、
床に大の字になっている縞模様の腹や肩に舌を這わすと、跳ね上がるように身悶える。

「…ランパス?」
「お前の、たくさん飛んでるぞ」

ランパスキャットは、さっきの行為で手に受け止めきれなかった白濁液を舌で拾う。

「…やっ、後で洗うからいい……っ!」
「お前が自分を洗うのは構わないが、裏の井戸なら俺は断るぞ」

慌てたマンカストラップが伸ばした手をひらりと避けて、べったりと汚れた手のひらも丁寧に舐めた。
しかしあんまりイヤそうな顔をするのでそこそこでやめておく。

「……ランパ」
「分かった、井戸まで付き合う」

ガラスの無い窓から外へ。
2匹とも少しくたびれて、足取りは決して軽くないが…ここへ来た時よりはずっと健康的に歩いている。
礼拝堂の裏の井戸の側には古びたバケツが置いてあり、人間が水を汲んだ名残がたまっていた。

まず匂いを嗅いでみて。
そう古くない水なのが分かったので、2匹とも顔を入れて喉を潤した。
次に無言のまま、ぐいぐいと顔を洗う。
マンカストラップは胸元や腹で固まりかけた粘液を、ためらいがちに舌で拭い、
すぐにバケツに顔と手を入れて、口元やら指先を水で流した。

ランパスキャットは特に汚れた手のひらを、とても嫌そうにバケツに入れる。
ちょいちょいと水面をかき回してから、手を嗅いでみた。
マンカストラップの出した匂いがほとんど消えている。
安心して、口を中心に顔全体をもう一度洗った。

「ランパス」
「なんだ」

空にはもう月が昇っている。
木々の葉に遮られて、姿はほとんど見えないが。

「…その…すまなかった、面倒をかけて…こんな」

マンカストラップは見回りを頼んだこと…までは冷静に言えたが、
先ほどの他猫には晒せない痴態を思い出すと、自分から呼び止めたランパスキャットの顔すら見られなくなった。

「言いっこなしだ、俺もあんなになったままじゃキツイからな」

呆れながら、しかし面白がりながら…ランパスキャットはぺろりと舌を出す。
尻尾の先は地面すれすれを這うような位置でほんの少し揺れただけで、落ち着きを取り戻しているようだった。

お互い、思うところはある。
どうにもそれを明確に掴めない…まるで今頭上にあるはずの月のように。

「…ま、今夜はこれぐらいでいいだろ」

そう呟いたのは、白黒のぶち猫。
どこか曖昧のままが都合が良いのかもしれないと、頷いたのは縞模様。
お互いもう子猫ではないから、自分の想いも相手の戸惑いも…どこかで感じて、理解している。
そういった気持ちを、急いで見せ合う必要がない事も。

「明日は、まずシラバブを迎えに行ってやれ」
あれで子猫なりに心配していた…と言って、背中を伸ばしてあくびをひとつ。

ダルい下半身を、それでも夕方よりずっとマシな状態と判断した縞模様が立ち止まった。
「そうする…もう帰るのか?」

「ああ」
「…気をつけてな」
「お前の方こそ」

昼間のやりとりと同じだ、と思ったのは2匹とも。
お互いもう子猫ではないから、それをどうこう取り上げなかったが。

教会からの坂道を下って別々に歩き出すと、人間の家や植わった木々の合間から月が見え隠れ。
満たされた欲求と入れ替わりに発生した感情も…見えるような、目を背けたいような。

…月はなにも、今夜だけのものではない。

ゆっくり見上げる時もあるだろう。
ただそれが、今夜ではないだけで。


END
2005.10.16
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