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つい昨日まで、澄んだ秋の空だったのに。
夕方から降り出した雨は、夜になって更に強くなった。
今はすっかり冷え込んでいて…多分、明日晴れても冬の空だろう。
今日はずっと、お気に入りのソファに転がって過ごした小さな黒い猫。
こんな一日も悪くない、と思いながら尻尾の先を毛繕い。
同居している人間の男が就寝前に黒猫を撫でに来ていたが、すぐに出て行った。
「…ふわぁ…っ」
大きくあくびをしていて、外の気配に気付く。
こんな夜に。
こんな時間に。
ここへやってくる猫は、彼だと想像できた。
庭の木に軽々と登る音がする。
そこから、この部屋の窓の上にやってくる足音。
黒猫はソファを降りて出窓まで行き、そっとガラスを前足で押した。
「…よおミスト、察しがいいな」
「非常識だね」
「ホメんなよ」
こんな雨の夜に、こんな遅い時間に。
自分の元へやってくる猫は、彼だと知っていた。
「びしょびしょじゃない」
「んん、気にすんな」
たてがみのある大きめの猫が、僅かな隙間から入って来る。
肩やら手足やらの水を舐め取って、耳をぷるぷると振った。
小さな黒猫は、水を滴らせて笑った彼に不覚にもトキメいてしまって。
けれど冷静を装いながら窓を閉め、振り返ろうとした時・・・
「…ッわ…」
後ろから抱きつかれる。
こんな風にされるのは、嬉しくてしょうがないのだけれど。
「くっくっくっ…」
じわりと流れてくる雨水は、心地悪い。
「やめてよっタガー…ッ」
とっさに、彼の動きを止めてしまおうかとも思った。
しかし。
「さむいな」
彼は、あまのじゃくだから。
彼は、思った事をそのまま口にしない時が多々あるから。
でも今は、彼が実際今どうなのかは、ほとんど関係なくて。
振り返ったミストフェリーズの顔を見て、へらりと笑うタガー。
抱きすくめた小さな身体を自分に向かせて、強引に口付けた。
「…ン…ッ」
ひやり。
湿った、冷たい、唇。
一瞬だけ重ねて温度を感じさせると、離れてニヤニヤと口の端を上げた。
今度はその唇の間から伸ばされる舌。
びっくりするほど温かくて、突然の事なのにひどく丁寧で。
「……んふ…っ…」
彼を伝って。
彼から熱を奪って。
彼から流れてきた水。
僕の体を伝って。
僕を不愉快にさせて。
僕から落ちていく水。
この勝手な猫の来訪。
大嫌いな雨水を伴っていても歓迎してしまう自分を知る。
つまり、不快なのは水だけで彼ではないのだ。
頬も腕も背中も、おそらく尻尾の先まで冷えたタガーの身体に腕を回す。
口付けながら、湿った身体を抱き締め返したところで、解放された。
「…寒いの?」
「ああ、さみーさみー」
だから暖めろよ…と耳元に囁かれて。
仕方が無いなぁ…と寝床に招き入れる。
こんな雨の夜も、悪くない。
END
2005.12.17
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