15 of MTTBura

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木漏れ日の下で秘密の遊び。

果物とワインを持って。
いつもと違う装いで。
人指し指を唇にあてた天使が目印。

ひとりは隣を歩くピンクのドレスの腰を抱き寄せ上機嫌。
ひとりは日常と違う身軽さに興奮を覚えて。
ひとりはコルセットの窮屈さすら恍惚。

木漏れ日の下で、秘密の遊び。

「妹のところに来た仕立て屋を、こっそり部屋に呼んだんだ」

天使の像の傍でくるりと回り、広がったピンクの裾をうっとり眺める。
嘘というのは、ひとつ吐いたら延々と続けなくてはいけないのだね…と寂しそうに呟いた後、ふたりを振り返って笑う。

決して女性のような顔立ちではないのだが、巻き髪のかつらを着け、化粧をしてドレスを着ると、遠目からは貴婦人に見えなくもない。

「仕立屋には多く払えば済むけど、まわりにはいちいちどこかの婦人へのプレゼントのふりをしなきゃならない」

ああそれから妹の小間使いにも内緒の給金を出してコルセットを締めてもらったんだ…と無理矢理細くしたウエストを押さえて言う。

――誰にも、秘密にしてね

胴回りはひどく窮屈で、腰から下は心もとないほど解放的な、おかしな服。

「…今のあなたに、憂い顔は似合いませんよ」

うやうやしく手を取ってブランコへとエスコートする男に、貴婦人然とした『彼』は甘えるように笑う。
男のコートは木漏れ日を跳ね返していて、そこからもうひとりに視線を移すとブランコに繋いだロープを手繰っていた。
普段の服装からは窺い知る事のない逞しい腕に、嬉しい眩暈がする。
簡素な服の彼は、こちらを見て薄く微笑んだ。

木漏れ日の下に響く、秘密の笑い声。

ブランコは揺れて。
行ったり来たり。
天使の像も、近付いては遠ざかる。

ブランコは揺れる。
行ったり来たり。
偽りと真実を、順番に繰り返すように。

木漏れ日の下の、秘密の遊び。

太陽の光は、嘘も真実も区別せずに降り注ぐ。
だから、少しだけ隠すのだ。
生い茂った緑の木々で、けれど全ては覆わずに。
揺れながら、細かな光に見せつける。

――誰にも、秘密にしてね

子供の頃から傍に居た召使いは、全てを承知していて。
恋しい相手の表立った肩書きは、親同士から続く友人。

ふたりの間を行ったり来たり。
どこまでが偽りで、どれだけ真実か、今は必要ない。

ドレスの彼の目配せでブランコが止まる。

「ねえ、ワインもっと欲しいな?」

瓶を逆さに振り、ドレスの裾を揺らして、いたずらっ子のように笑った。

そんなに飲んだ筈はない。
だけど、真実は今必要ない。
尽くすことを厭わない彼は、にっこり笑ってお辞儀をする。
コートを翻して木々の向こうへ。

また、ブランコが揺れる。
快楽をより膨らますための遊びも、ここが限界。
愛しい背中を見つめ続けていた男は、偽りの境界を越えて木漏れ日の下に真実を晒した。

口付けて。
ドレスをたくし上げ。
もっと奥へ。

隠していたのは。
身分、性別、情欲。

「……ッ…ぁっ」

これからも隠すのだ。
身分、性別、情欲。
知っているのは、あなたとわたし。

――誰にも、秘密にしてね

大勢と交わす、あなたとわたし。

天使もきっと、黙っていてくれるから。
次のワインは息せきった彼の手で、ゆっくりここへやってくる筈だから。

「…新しいドレス、よく似合う」
「嘘、何着たってそう言うだろう?」

「いつでも本当」
「本当に?」

「天使に誓ってもいい」
「嘘つきを黙認する、怠惰な天使に?」

ひとさし指を唇にあてて、茂みの前にある像と同じに微笑んだ。
その手をどけて、唇を塞ぐ。

「それじゃあ…」
「うん?」

偽りも真実も黙って見下ろすだけの、この木漏れ日に誓って。
変わらぬ気持ちを耳元に囁き、ブランコを降りる。
ドレスの彼は帽子を被り直し、まだ悦びに震えている指先でリボンを結んだ。

情事はブランコをひとこぎするようにつかの間で。
けれどその揺れの頂点にいるような恍惚は、窮屈で解放的なドレスと相まっていつまでも身体に纏わりついている。

まだ当分、やめられそうにない。
木漏れ日の下の、秘密の遊び。

「…お待たせしてしまったね、わたしの貴婦人」

新しいワインを手に戻ってきた彼は、とても忠実な男。
主人の希望を叶えることに、喜びを見出す。

危険な遊びに付き合うのは、彼にも偽りたい欲望があるから。
きらびやかな服を着て、ドレスに身を包む彼を抱き寄せて笑い合う時間。
例えそれが、ブランコが向こうとこちらを数回行き交う間だけでも。

甘い誘惑の先にある、秘密の遊び。

夢のような時間には終りがあって、着ていたコートを脱ぐともうひとりの男が袖を通す。
恋人達は笑い合い、天使は口を噤んだまま。
ただ、陽の光だけが変わらずに注いでいた。

ブランコの揺れに身を任せると、偽りと欲望が見え隠れ。
木漏れ日の下で、いつまでも秘密の遊びを。


EndressEnd
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