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ふかふかの毛並。
いつもとは違う匂い。
「…いいかも」
抱き締めた大きな猫のたてがみに顔を埋めて、うっとり呟いた。
小さな黒猫は、午後の風が木々をざわめかせる音に、白い耳を振る。
始まりは、黒猫と同居する人間の男の都合だった。
晴れ のち 晴れ。
今日の天気予報は、そうなっていた。
実際にとても暖かい日差しがあったので…男は昼間の早いうちに黒猫を呼んだ。
―――おいで、クアソー。
毛繕いが済んだばかりだった黒猫は、にゃあと返事をする。
そして、律儀にリビングへ顔を出してしまった。
抱き上げられ、連れて行かれたのは…バスルーム。
あまり好きにはなれないこの場所に来る理由はただ一つ。
ああ。
返事をするんじゃなかった。
というか、逃げ出したい。
たまには必要な事だと分かっていても、やはり嫌なものだ…体を洗われるのは。
水に入れられるのが、本能的に不快。
できるだけ早く終らせて欲しくておとなしくする。
しかし、泡まみれになりながらも隙あらば逃げようと頭の隅で考えていて。
あまりにも不快だったので、近付いて来ていた気配に気付くのが遅れた。
―――あれ、君の友達かな?
カリカリと戸を引っ掻く音。
人間の男がわずかな隙間を作ると、躊躇いなくするりと入ってきた大き目の黒猫。
「よおミスト…めずらしいな、水遊び嫌いなんじゃねーのか?」
「大嫌いだよ」
それに遊んでる訳じゃない…と言うと同時に、
彼が入ってきた隙間めがけてジャンプ、そしてダッシュ……しようとして、押さえつけられた。
「なんだよ、オレも遊ばせろ」
「ちょ、離してよっ…わぁっ!」
ミストフェリーズは大きな黒猫に逃走を阻止され、人間の男によってまた浴槽に戻された。
「オマエ真っ白だな…なんか変だぞ」
ひひひ、と笑ってじゃれつく。
「タガー!暴れないでっ…水が飛…ぅわっ」
彼は天邪鬼でひねくれ者だから、水遊びが好きな"フリ"をしているのだと…
そう思っている仲間も少なくないが、彼は本当に水に濡れるのを嫌わない。
なので、公園の池や教会裏の井戸で遊ぶし、雨の日でも出歩くのだ。
今日はイヤがるミストフェリーズを巻き込んで"水遊び"に興じる。
いつもは人間に触られるのを巧みに避ける彼だが、
白いバスタブのに張られた水の中で背中を掻かれるのは大層気に入ったようだ。
突然の乱入者があったものの一通りの作業が済む…
自分の身体から滴る水滴がとても不快なミストフェリーズは、同居の男性に早く拭くようにと迫る。
タオルに包まれてようやく安心しても…ちょっと不機嫌になったのを主張すべく部屋の隅に座ってにゃあと鳴く。
「僕知らないよ…タガーを入れちゃったの、あなただからね」
自慢のたてがみが重たくなったのも意に介せず廊下を走っていく猫を、
いつもなら呼び止めるが今日は同居人に任せっきりにしておく。
しかし、そう時間をかけずに捕獲されて戻ってきたタガーは、楽しそうに笑った。
「オマエ、そんなにイヤならお得意の魔法で逃げりゃあいいのによっ」
「…そういう訳にもいかないんだよ」
ようやく解放されて…ふらりと庭の木陰へ向かうミストフェリーズ。
その後ろを、少し暴れて気が済んだらしいタガーが追う。
早速外へ出て行ってしまった2匹を眺め、人間の男は苦笑したが…家の奥に戻って行く。
「…朝からくたびれちゃった」
「そうか?面白かったぜ」
2匹は揃って長く伸びた芝の上を歩きながら、毛がより乾くようにと風に晒す。
丁寧に伸びをしてから横になったタガーに、ミストフェリーズが圧し掛かった。
耳の後ろを舐められて、黙って目を細めるタガー。
「…あ」
「なんだよ」
ふかふかの毛並。
いつもとは違う匂い。
「…いいかも」
「なにが」
いつもは土や埃や日向の匂いがしているタガーの身体。
今日は、さっき身体を洗うときに使われた泡の匂いがする。
「タガーなのに、僕と同じ匂いがする」
一旦、自分の腕に鼻を近づけて…もう一度タガーのたてがみに顔を埋める。
吹き抜けた風も気持ちがよくて、尻尾を揺らした。
いつもは"彼自身"の発散する匂いに惹かれるのだけど。
今日はこの"自分と同じ匂い"をさせる彼に…興奮を覚えた。
抱き締めて。
歯を立てる。
「…っ…」
性急だとは思ったが、とてもガマンできなくて。
うつ伏せに寝転んでいたタガーに覆い被さるようにして、首筋を噛む。
逞しい身体をまさぐって、反応を指先に感じる。
「ねえ、同じ匂いがするよ…なんか不思議」
混ざり合ってしまったように。
「ねえ、タガー」
そんな風に思うと、身体はより昂ぶった。
タガーはといえば、ミストの要求に応えてもいいなぁと思いながら…あくびをひとつ。
「していいよね?」
問いには、ただ尻尾をひらひらと振った。
否定ととられても、肯定ととられても…どちらでもいいと思ったから。
黒い2匹の姿。
重なって。
身を寄せて。
混ざってしまいそうなくらい。
「…ッ…ン、ぅん…っ」
背中を噛まれて仰け反り、耳を舐められて身を捩る。
器用な小さい手指は股間を撫でさすっていて、ちっとも休まない。
タガーの途切れがちな声を、ずっと聞いていたいのと。
早く自分も快楽に浸りたいという気持ちとがせめぎ合う。
「うふふっ」
「…っんだよ」
タガーの腰に噛み付きながら、脚の付け根あたりの匂いもかぐ。
「なんか、すごくイイ感じなんだもの」
キラキラと日の光が反射するタガーの毛並は、普段も見た目以上に柔らかいのだが…
今日はそれに磨きがかかってる。
自分と同じ匂いの猫。
それだけで、こんなに興奮するなんて。
独占欲…に近い感情?
彼の自由な気質を愛している自分としては、この意外な形で得た感覚は貴重だ。
実際に彼を自分に縛るつもりなど、爪の先ほどもないのだけど。
考え事をしながら、しつこく何度も…彼の腰を噛む。
感じて、ぴんと伸びたタガーの後足の爪先をチラリと見て、もう一度歯を当てた。
「…ん…ッ…」
タガーはミストに向かって眉をしかめてみせる。
ミストはその視線に気付き、再度タガーの腰骨の辺りを何度も噛んだ。
「…ハ…ァッ……っ」
要求に応えていると、ふいに手の中のタガーのモノが硬さを増す。
ああやっぱりさっきの顔は“もっと噛め”って事だったんだ…と納得。
そう思うと途端に、ミストフェリーズの身体も熱が高まった。
片方の手で自分のを握ってみると、とろりと先端から液が零れる。
それが思いのほか多めだったので少し恥ずかしくなったが、
絞るように扱いてから…タガーの尻尾の裏側に、そのぬめる指先を押し当てた。
「…ンンッ…」
刺激を歓迎するようにヒクついたソコに、ゆっくり指を滑り込ませる。
中指が半分くらい埋まったところで、中を探るように押し広げた。
すぐに硬さのなくなったソコから一旦引き抜くと、今度は指を3本揃えて入れる。
「…ッ…は…」
タガーの先端にも透明な液が浮かんで…より強い刺激を欲しているのだと確信。
ミストフェリーズの指に反応して腰をくねらすタガー。
眉が苦痛を感じたように寄せられているが、目と口元は笑っていて…浅く、早めの呼吸を繰り返す。
その表情に息苦しいほどの情欲を感じて、背中が逆立つミストフェリーズ。
「…入れたいんだろ」
タガーが口の周りをぺろりと舐めて、ミストフェリーズの腕に尻尾を絡めた。
「…入れて、オレの中で出したいんだろ…ッ」
腰の動きを止めて、ミストフェリーズの指をじわりと締め付けながら
喰らい付くような視線で、タガーが笑う。
「…あんまりいじめないでよ、そんな顔されたら入れなくても出ちゃいそう」
笑い返し、誘ってくるタガーの尻尾をやんわり捕まえた。
毛の流れに逆らって撫でながら、少し強めに噛む。
もちろん、タガーの中にある指を不規則に動かすのを休まない。
「…ッ…ン」
まるでいっぺんに2匹の相手をしているようだと思いながら…タガーは大きく一度、腰を回す。
ミストフェリーズは、タガーが自分を欲しがってるのだと分かって微笑んだ。
興奮するし、単純に嬉しくもある。
ただ、彼が自分を欲しがる以上に…今は自分の方こそ、彼が欲しい。
少し強めの風が吹く。
庭の草は刈られてから日数が経っていたので、ざっと乾いた音を立てる。
草と土の匂いに混じって、さっき散々嗅いだバスルームの泡の匂い。
今まで何とも思わなかったその匂いは、今日に限ってとても愛しい。
「…僕とタガーの匂いだね」
構っていたソコから指を抜き、タガーに再び覆い被さる。
大きな背中に遠慮なく乗り上げて、風になびくたてがみに顔を埋めた。
ミストフェリーズは毛足の長いタガーの首にしがみついて、全身を擦りつける。
「…入れたい」
ぶるっと身体を震わせる。
いれたい、いれたい…と、呪文のように繰り返して、タガーの首と肩を何度も噛む。
タガーは仰向けに転がり直して…しかしミストフェリーズには触れもせずに、ただ笑った。
そして、首輪を指で引っぱって下げると、噛むように無言で要求。
小さく喘ぎながら夢中でタガーに絡みつくミストフェリーズは、それに応えて金色の毛並に歯を立てた。
ミストフェリーズが2度目に歯を当てたところで、タガーが仰け反る。
「…ッふ、ぅ…」
そこがイイのだと分かったので、舌を這わせてからまた強く噛む。
もう少し構いたい気もしたが、限界だった。
伸び上がって、タガーの顔を覗き込む。
口付けて、いつものように舌が絡めとられるのを待ったが…タガーはニヤリと歪ませた唇を押し当てるだけ。
「タガー…ッ」
焦れて甘ったるくなった声で彼の名を呼ぶと、ようやく返事があった。
「…入れろよ」
そしたらスゴイのしてやるから、と囁いて目を細める。
ミストフェリーズは身体を起こすとすぐに、自分の充血した先端をタガーのソコに押し込んだ。
「…ぅ、ぁ…ッ」
狭くて抵抗のある粘膜はひどく熱くて、思わず吐息と共に声が上がる。
タガーは深く息を吐きながらミストフェリーズの細い腰に脚を絡め、腕を伸ばして抱き寄せた。
ミストフェリーズの重みが加わった事で、より深く繋がる。
「……っふ、ぅ…」
内側にあった引っかかりを越えたようで…ずる、と再奥に収まった。
「…っあー…すっげぇイイ…ッ」
タガーはミストフェリーズを抱えて腰を揺らす。
「…待って、待ってっ、そんなにしたらイっちゃぅ…!」
切羽詰った抗議の声に、ぴたりと動きを止めた。
少しむっとした後に何かを思い出した顔で、ミストフェリーズの顎を取って口付ける。
「……ァッ…ン…ぅふ…っ」
前歯の裏側をタガーの舌が器用に掠める。
くすぐったいような、けれど恐ろしく強い刺激。
「…んん……ッ…ハァッ…ぁむ…っ」
口の中を上の方までぐるりと撫でる舌を、追う事もできずにただ身悶えた。
頭を押さえられ、されるがままに口腔を犯される。
首の後ろの方がゾクゾクして身体から力が抜けていくのに、掴んだタガーの肩には爪を立ててしまう。
ビリビリとした快感に気が遠くなりそうだと思い始めた頃、タガーが無理矢理腰を揺らす。
性器を擦り付ける感覚が、自分の意思で行われないのは不思議だった。
そのまま快感にのまれてしまいたいとも思ったが、ふわりと鼻先を掠めた匂いに何故か頭の隅がハッキリする。
「…っん、待って、ょ…っ」
ぐっと腕に力を入れて、タガーの上に起き上がる。
「…もうっ…タガーのえっち」
ああこれだから遊び人は…などと思ってもいない悪態を吐く。
本当は、カッコイイとか思ってしまったのだけど、それは言わないでおこう。
「…動けよっ」
ゆっくり瞬きしながら舌なめずりして、タガーが腰を擦り付けてきた。
一度深呼吸して、それに応える。
小刻みに、奥を突き上げるとタガーの中が波打った。
「……ッ…ぅ、ん…」
ただ感じるだけに集中するタガーはひどく可愛らしく思える。
さっきまでの意地の悪い笑みが薄れて、快楽に流されるのを楽しんでいながら…僅かに怯えているような。
「…タガー」
ミストフェリーズの声が聞こえていない訳ではないが、もう応えない。
「…ふ…っく…ぁ……」
目を閉じ、喘ぎながら腰を揺らす。
ぐいぐいとソコを押し付け、勝手に気持ちがいい場所を探して、見つける。
ミストフェリーズも、それに合わせてタガーの内側を擦りあげた。
「…は、ぁ…ッ……ぁぁ…っ」
「…タガー…すごぃ、中…ィ、きそぉ」
お互い、ひたすらに快楽を貪る。
「…まだ、も少し…っイクな、よ…!」
タガーが無茶を言う。
しかしその無茶が何だかとても嬉しくて、愛しくて、ミストフェリーズが笑った。
動きを抑え、下腹に力を込める。
そんなミストフェリーズの様子などお構いなしか、それとも余裕がないのか…タガーは自分のモノを握った。
扱きながら、中にいるミストフェリーズをぎゅうぎゅうと締め付ける。
「……ぁっ…だからっそんな、にしたら…イっちゃうって…!」
「…うる、せ…ぇ…っソコ、ソコもっと…ぁぁっ…はっ」
なんだかよく分からないうちに、耳にはお互いの荒い呼吸が聞こえてて。
仰向けのタガーの身体にはミストフェリーズが圧し掛かっていて。
早めに打っている鼓動まで、どくどくと重なり合っていて。
相変わらず同じ匂いが、お互いの鼻腔に届いていた。
「…なんか、混じっちゃったみたいな感じ」
ミストフェリーズは、タガーの首元に顔を埋める。
家の中の男性は、飼い猫とその友人がよりにもよって今日という日に
土と埃と…まあ色々な事情にまみれてしまった事をまだ知らない。
多分、知ってもそう怒りはしないのだろうが。
晴れ のち 晴れ。
午後の風は…1匹のように見える、重なった2匹の猫の側を吹きぬけた。
END
2005.10.23
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